街に深々と雪が降り積もる。
彼が住んでいる教会も、いつの間にか白一色に染められていた。
彼はいつものように、天井から吊り下げられた十字架の下に立っていた。
すぅ…と雪の匂いを嗅いだ。
彼は雪の匂いが好きだった。
自分が産まれた時を感じるから。
キィ…と古びた扉が開く音がして、彼はそのままで訊ねた。
「誰…?キミは誰?黒き姫」
彼が言った通り、入って来たのは黒髪の少女だった。
少女は何かに怯える小動物のように身体をふるわせつつ、彼に答えた。
「あ、あたし……アイサです。アイサ・カラカサ……」
「――ねぇアイサ、キミは何故この教会に入ってきたの?」
彼はまたもやそのままで、黒き姫、アイサに訊ねた。
「えっ、あの……詩(うた)が聴こえて………」
―――神は我らを愛し、愛しきあまりに殺すだろう―――\r
「そう………」
彼は呟くように言うと、小さく笑った。
―――詩が聴こえた
彼と同じだった。
「この子もサラサエルの申し子みたいだね。カミサマ」
小さく小さく、彼は囁いた。
当然少女に聞こえるはずもなく、アイサは声を返してくれない彼を見つめていた。
「ふふっ――ふふふっ―――」
彼は笑った。
楽しそうに、嬉しそうに。
「アイサ・カラカサ!」
彼は少女を呼ぶと、そこで初めてアイサの方に向いた。
「お帰りなさい。黒き姫―――」
サラサエルの申し子は、一人ではなくなった。