陽射しは強いが、水が近いせいか、あまり暑さは感じなかった。
アメンボが、気持ち良さそうに、水の上を走る。
蝶々が、花から花へと舞う。
入口が近づくと、冷や〜んと涼しい風が吹く。
『気持ちいいね!』
『そうだね』
『中は、キラキラしてるよ。行こ!行こ!』
俺の手を引き、せかす。
『よし!行こっか!』
いろんな思いを、俺だけが抱えて、中にはいった。
竹がありクリスマスツリーみたいに、飾ってあり、わりと明るい。
少し進んだとこに、テーブルがあり、色紙とサインペンが置いてある。
『ここで、短冊にお願いを書くんだよ』
『この色紙、使いたい』
バックから、使いかけの色紙を取り出した。
『準備、いいじゃん』
『ちょっと、汚れてるけど…事故の時、握ってて…病院で鶴とか折ったから…その…』
≪嗚呼……!≫
七夕用に、去年買った色紙じゃないか。バレンタイン明けから、付き合ったんで、初イベントを、すんごい楽しみにしてたんだ。
『俺は、男だから青をくださいな♪』
『うん♪アタシは、ピンク♪』
そう言いながら、俺に灰色の紙を渡した。
『青はナイなり!?』
『じゃッ…緑は!?』
『今、お願い書いてるから、邪魔しないで』
『俺も、お願いした〜い』
そう、このキャッチボールは、理香としかできない。
『なんて、書いた!?』
『やだッ! 見ないで』
逃げ回る理香を、捕まえるわけでもなく、茶化していた。
『もう、書いたもん。早く、書いてよ』
仕方なく、灰色の紙に願いを書いた。
いつまでも
理香と仲良く
いられますように……
理香は、顔が真っ赤になった。
俺は、恥ずかしくないけどね。
『理香は、なんて書いたの!?』
『早く出よ! ねっ!』
俺の手を握り、引っ張る。
『わかったよ!』
二人の短冊を結んだ、竹から離れて行く。
何て書いたか、気になるけど、まっ!イっか…。
ふわ〜ッ
ピンクの紙が、風に揺れた。
貴士君が
白馬で迎えに
来ますように……。
【完】