* * * * * *
カラーリング剤を塗布する聖人の手つきは、なかなかお手のものだった―\r
聖人はヘアクリップで何束かに分割したあたしの髪を、一束ずつ丁寧に染めてくれた―\r
『染め残しのない様にしないとな。』
聖人の吐息が、あたしの耳元に届いた―\r
ドキン―\r
あたしのドキドキが、また思い出した様に踊り出す―\r
『亜麻色の〜長い髪を〜♪』
あたしのドキドキをよそに、聖人が思い出した様に歌い出す―\r
『聖人って歌上手いよね。』
あたしの口から出た言葉が意外だったのか―\r
聖人は一瞬、目をまん丸くした―\r
『そう?でも俺、カラオケは苦手。』
あたしの髪にカラーリング剤を塗布しながら聖人は言った―\r
『え〜っ。聖人、今度一緒に行こうよ。サトル君やミズホさんも誘ってさ。』
みんなでカラオケなんて、もう暫く行ってなかったから―\r
『行ってもいいけど、俺は歌わねぇよ。』
『え〜っ。じゃあ行く意味ないじゃん!!』
あたしは、ちょっと拗ねたフリをした―\r
『俺は、やっぱバイクと車が好きだな。バイクは今は無免で乗ってるけど、18になったら大型免許取りに行くつもり。』
聖人ってば―\r
そんな話、大きな声で言える話じゃないわよ―\r
とても中学生の会話じゃないよぉ‥‥。
『聖人、大型だったら今、もう既に乗ってるじゃん。
お父さんのバイクは、ヤマハのXJRの1300?‥‥でしょ?!』
あたし、これでも本で勉強したのよ―\r
聖人の大好きなバイクと車のコト―\r
『すげぇ〜!!奈央。よく知ってんな?!』
あたしの髪を染める聖人の手が、一瞬止まった―\r
聖人は、あたしがバイクの名前を知っていた事に、よっぽどびっくりしたらしい―\r
そんなに驚かなくてもいいじゃん―\r
それって、知ってちゃオカシイってコトなのかな?!―\r
それとも、こんな事思うあたしがヒネクレ者?!
『あたしは‥‥バイクや車に興味がある訳じゃないよ‥‥。
でも、好きな人のコトをもっと知りたいって思うの‥‥おかしいかな‥‥‥。』
なんか寂しい気持ちになった―\r
あたしは、ただ‥‥聖人の好きなコトが知りたかっただけなのに―