『別におかしいなんて言ってねぇだろ。』
その一言が、どんな表情で言ってるのか気になったけれど―\r
髪を染めてもらっているあたしには聖人の顔は見えなかった―\r
『だって‥‥聖人、いつもあたしに何にも話してくんないじゃん。
放課後‥3-5の教室で、サトル君と二人だけでバイクや車の話で盛り上がっちゃって。
あたし、もっと聖人のコト知りたいもん!!
聖人の好きなコト知りたいもん!!』
『‥‥‥‥‥。』
あたしの言葉に―\r
聖人は黙ってしまった―\r
でも―\r
あたしの髪を染める手だけは、器用に動いている―\r
『俺さ、バイクは無免で、じゃんじゃん乗りまくってるくせに、車は一度も運転した事がないんだ。
つい最近までは、人の運転する車にさえも乗りたくなかった。
正直、車なんて一生乗らなくていいって思ってた。』
『うん。』
あたしが頷く―\r
『じゃあ何故、今は乗ってるのかって思うだろ?!
思い出したんだ―\r
ソレを―
今の―\r
奈央の言葉で‥‥‥‥‥。』
『聖人‥‥‥。』
あたしは今―\r
聖人の心底の更に深い所に―\r
やっと手が届きそう気がしていた―\r
『母さんのコトが―\r
走り屋だった親父の運転する車の助手席に、いつも座っていた―\r
親父の車に乗るのが大好きだった母さんの―\r
その気持ちが急に知りたくなったんだよ‥‥‥‥‥。』
気のせいか―\r
聖人の声が少し震えていた様な―\r
あたしは聖人に、直ぐに返す言葉が見つからず―\r
髪を染めてもらう事だけに集中するしかなかった―\r