聖人は黙ってあたしの髪を染め続けた―\r
お互いに何も話そうとしなかった―\r
聖人も―\r
あたしも―\r
少しの沈黙が、どれ位の時間が経過したのか分からない程長く感じた―\r
突如―\r
家の外では、けたたましく選挙カーが走り過ぎて行き―\r
その音が―\r
あたし達二人の間の静寂を一気に破った―\r
『俺の親父と母さんは元々、神戸の人間でさ。
だから俺は、神戸生まれの小樽育ちなんだ。』
聖人は―\r
ずっと誰にも話す事が無かったであろうと思われる、お母さんへの思いを―\r
きっと、今のこの瞬間までずっと胸中に秘めていたのだろう―\r
あたしは今―\r
聖人の胸中を早く知りたいという気持ちと―\r
知らない方がいいのではないかという気持ちが―\r
互いに交差した所で気持ちの行方に迷っていた―