Mind Adventure 15

籬 規那  2008-04-18投稿
閲覧数[441] 良い投票[0] 悪い投票[0]


「よいしょ……」

メシアは、港への階段にゆっくりと腰をかけ、ほうっと一息をついた。



さっきまで一緒だったジンは、今頃、年相応に、観光でもしているだろう。




今まで、とても長かった。


人に利用されるべく生まれ落ちた自分は、一生を籠の中で、静かに終えるんだとばかり、思っていた。


この青空を舞うカモメのような日を、夢に見る事すら恐れ多くて。






だけれど。



あなたにはその時まで秘密にしよう。


終焉は、きっと近い。















「お―――い?」

「生――きてる―かい?」


ふざけた声で目を覚ますと、ジンがこちらを覗きこんでいる。



私と彼は、ゆっくりと話をしたことは一度もないし、それでいいと思っている。


「ばーちゃんみたいじゃん!そんな風にぐだぐだしてたら、わかめになっちゃうぞぉ?」

その笑顔の裏に、どれだけの苦労や苦しみがあるんだろう。



明るい言動に一瞬滲む、他の感情。それは、過去の鎖。








魔法世界ピスティアは、5つの帝国と4人の王に統治されている。


資源の不足により、規模の大小に関わらず、常に都市と都市、町と町の冷戦状態が続く。



その中で、子供だけで生き抜き、まして旅をするなどということは………奇跡としか、思えない。



「一緒に行こう!外の空気は、少しだけ君には汚いかもしれないけれど。きっと幸せになるから!」


そう言って、ジンが赤子同然のメシアの手を引いてくれた時には、気付かなかったけれど。

今なら分かる。自分のこの瞬間が、どれだけの犠牲の上にあるのかが。




自分だって、そこまでは馬鹿でないつもりだ。


この歳になって、ここまで語彙が広がったのは、ジンのお陰だ。


こうして、世界に触れ、知った事は本当に沢山ある。

だけれど、やっぱりそれには、準備が必要で。




どうしても、どうしても。

無力な自分がもどかしくなる。


言葉を教えてくれた時の宿代とか、そういう物理的な、分かりやすい事だけでも返す事ができたなら、と。




思う間にも。


砂時計の砂は、流れ流れて。




遠くなる。



存在が。






投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 籬 規那 」さんの小説

もっと見る

アドベンチャーの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ