何を迷っているの、あたしは―\r
あたしは、ずっと聖人のコトを知りたいって思っていた筈―\r
迷わず、聖人の胸中を聞きたいと思うのが当然じゃん―\r
多分―\r
知りたいと思う反面、怖かったんだ―\r
あたし―。
誰だって、誰にも知られたくない事があるし―\r
あたしだって―\r
知られたくない過去がある―\r
そして―\r
それを誰かに話す事は―\r
とても勇気を必要とする事であって―\r
だからこそ―\r
今、あたしに向かって自分の胸中を話そうとしている聖人に―\r
あたしは優しく耳を傾けてあげなくちゃって―\r
そう思ったんだ―\r
『そうなんだ?!聖人って神戸で生まれたんだ?!
神戸って小樽と同じ坂の町だったよね?!』
神戸は―\r
あたしにとって、一度は行ってみたい場所だった―\r
異国情緒溢れる港町へ―\r
『よく知ってんな?!そう、その神戸に“六甲山”って山があるんだ。
当時、走り屋だった俺の親父は、夜が更けると、いつもそこで走っていた―。
隣に母さんを乗せてね―。』
あたしの髪の最後のクリップを外し、聖人が言った―\r
『“六甲山”。有名だよね。』
『知ってるんだ?!そう。その“六甲山”のヘアピンカーブが、すげぇキツくてよ。走り屋の間では結構、有名なんだぜ。
“関西の走り屋は裏六甲を極めろ”
なんて言ってさ。』
『へぇ‥‥‥。』
聖人は―\r
最後のクリップを外した、その髪に―\r
優しく丁寧にカラーリング剤を塗ってくれた―\r
『当時、親父は走り屋の間では、結構名が通っててよ。
親父の事を知らない奴は、多分いなかったんじゃないかと思う。』
『聖人のお父さんて、そんなに凄い走り屋さんだったんだね。』
聖人の手が―\r
あたしの最後の髪にカラーリング剤を塗り終えた―\r