「あの人みたい…」
前を横切る女性をみて、美羽はそっとリノに耳打ちした。
結局、美羽は全てをリノに打ち明けた。
幽霊の声のこと。
幽霊の求めること。
そして彼の声に従って、女性……彼の妻を捜し当てたのだ。
女を見つけた瞬間、頭のなかの彼の感情…戸惑いや悲しみ、それら全てを上回る愛しいという感情が、爆発するのを美羽は感じていた。
殺して欲しい。
そういった彼の真意を、リノはうまく誘導して聞き出していた。
学校で、二人は初めて出会い、恋に落ちた。
若い恋にも関わらず、心変わりをしなかった二人はある誓いを立てた。
どちらか一人が死んだとき、もう一人も後を追う…と。
馬鹿馬鹿しい約束、と人は笑うかもしれない。
けれど彼はそれを信じていたのだ…。
結婚して二年。
二人はあっさりと「彼の事故死」という事件によって引き裂かれた。
そして…。
彼の想いは学校に残り、彼女の来るのを待った。
二人が出会った時にも雨が降り、事故で死んだその日も雨だった、と彼は美羽の口を借りて語った
「で…彼女が後を追わないことが、あなたには許せないのね?」
静かに語るリノに、美羽は頷いた。
二人は捜索を始め…彼の教えた住所にまだ住んでいることがすぐにわかった。
そして。
美羽の心には、悪意を含む殺意はこれっぽっちも湧かなかった…。
恐れていた殺意の代わりに、とめどない愛しさと悲しみが胸に突き刺さる
「…もういいって…彼は言ってる」
美羽の言葉に、リノは首を振る。
「そんな。せめて彼女から話しを聞きましょ?」
しかし、彼は頑なに心を閉ざした。
「だって…」
その時、女性の後ろから飛び付く女の子が…目に入った。
そのこはフッとこちらを見ると…不思議そうに首をかしげ……美羽に向かって太陽の日差しのような微笑みを投げかけた。
「あれって……あの子はもしかして…」
リノは美羽を振り返った
美羽の両方の瞳から、涙が伝い落ちた。
「…うん…」
言葉にしなくても、リノと美羽の想いは…いや幽霊の想いは、同じだった
あの子のために、彼女は生きることにしたのだ。
しばらく後ろ姿を見送って……声は消えた。
ありがとう。
そう呟いて。
帰り道、美羽はリノに
「ねぇ…どうして声のこと疑わなかったの?」
リノはクスッと笑って、
「だって知ってるもの…不思議な扉が開く事がある…って」
終