「そんなのいないから!いま冬だから!お願いだから目を覚まして!」
「ちょうち」
「だああぁあぁあ!!」
「ねぇ見てちょ」
「うわあぁあぁあ!!」
「ち」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙……」
つられて妖需まで錯乱気味になりかけてきた頃。
がくん!
今までの船酔いのふらつきとは、異質の揺れが二人を襲う。
勢いのままに、立て膝をついていた妖需は、大きくバランスを崩してしまう。
気付けば、先程とはうって変わって意識がしっかりした様子のフィレーネに支えられていた。
「大丈夫か!?」
船室に篭っていたディルが、ドアを乱暴に開けて駆け込んで来て、嘔吐感の治まらない二人を、とりあえず立たせてくれる。
揺れは繰り返し起こっており、ただの波とは、到底思えない。
「甲板に出てみましょう。メシアや、ジンが心配だし、理由が解るかも……!」
フィレーネの言葉を合図に、3人は船室を後にした。
「∴¢§‰逞£℃鴪飃∝¶⊂MIh,/G.E,/=781⊇∞§∬∞」
メシアの声と同時に、ジンの体が、淡い緑に発光する。
足場が不安定にも関わらず、ジンは集中力を途切れさせる事なく使い魔を操り、自らも小刀や蹴りで敵に応戦するという、離れ業を披露していた。
それでも、形勢は良くはない。
長くてらてらと光る触手に跳び蹴りを弾かれ、飛ばされたジンは、水浸しの床に足を取られて僅かにバランスを崩す。
妖需が走り、今まさにジンに襲い掛からんとしていた触手を風矢で切り飛ばす。
「………っ!!」
ぬめっとした体液が、腕に触れた。身の毛のよだつ、最悪の感覚。
恐る恐る、本体に目をやると……
青黒い何かが、そこにはいた。
半透明の体の中では、その内臓が蠕き、ウミウシのような体を醜くくねらせながら、触手を振り回している。
妖需の動きに反応し、すぐに前衛に出て本体を止めてくれたディルの行動は、驚嘆に値する。
本気で。
腕に軽い痛みを覚え、ふと見てみて驚いた。
皮膚が溶けている。
ちょうどその瞬間、ディルが腕に装着した刃が魔物を貫き、多量の体液が噴出した。