―君は歌う―\r
―貴方は静かに聞いている―\r
―時が流れる―\r
―決して交わることのない二人が一つの時間を共有できる瞬間―\r
いつからだろう。グラウンドに面した1階の音楽室から綺麗な歌声が聞こえる。
いつからだろう。私が歌っていると窓辺に彼がいる。
ずっと
ずっと
あの子はなんて名前だろう?
あの人はなんて名前なんだろう?
あの子の歌を聞き始めたのは去年の今ごろだった
あの人が歌を聞き始めてからもう1年たつ
もぅ少し。ほんの少し。距離を縮めてみたいと思った。
ちょっとだけ話してみたいと思った。
「ねぇ…」
「あの…」
「「名前なんてゆうの?」」
二人は1年間窓越しに見つめあったのにこの日初めてお互いを求めた。
彼は彼女の歌を聞くために部活をサボって聞いていた。
彼女は暑い日も寒い日も雨の日も彼に歌がちゃんと聞こえるよう窓をずっと空けていた。
話そうと思えばいつでもできたはずなのに二人はいつも透明な存在だった。
この日、透明な二人に色がついた。