レコードに針を降ろし、薄暗い部屋に軽快なピアノのイントロが流れだす。そして歌声が加わる。その薄暗い部屋でソファーに身を沈め手には、ブランデーグラスを持ちその軽快なイントロに耳をすます。仕事が多忙な音楽プロデューサ−古賀直也の安息のひとときである。古賀が耳にしてるのは、1971年不滅の金字塔と代され、グラミー賞を獲得した、女性シンガーソングライター、キャロル キングのアルバム「つづれおり」である。このキャロルの歌声を耳にすると古賀は、ある一人の女性を思いだす。その女性の名は、吉村恵子。古賀が20年前、彼がプロのミュージシャンを目指していた頃、想いを寄せていた女性である。当時、古賀は、二十歳、いっぽう恵子は、まだ高校生であった。