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「〇〇薬品でーす。薬のご提案に伺いましたー」
営業マンの声は、雨が浸したアスファルトに反響し、僕の家にまで聞こえてきた。
「どうもー!」
そう応えたのは少年の母親らしき声だった。知り合いか?と思わせる対応に一瞬耳を疑ったが、〇〇薬品は悪評の高い製薬会社で、ここら辺の人なら皆知っている。契約を結んでる家は皆無だった。
不審気に思って側耳を立てた。雨音が二人の会話を打ち消し、内容は聞き取れなかったが、暫くやり取りは続いていた。
「では、また宜しくお願いしまーす」
片っ方が言った声は晴れない日には似つかわしい咲いた高揚があった。
漸く付近を離れてくれる営業マンにホッとしながら、その姿を確かめようと、そっと隣家の玄関先に目をやった。
営業マンの手には抱え切れないほどのキャベツが腕いっぱいに盛られていた。困り果て、ありがた迷惑な表情は見ていて気持ちよかった。