さっきの女性スタッフ曰く、今この部屋に入って来た“中年ノーネクタイ男”と“Tシャツにジーンズ姿の女の子”は、、このオーディションの担当者だと言うが、
要するに、この二人がこれから、僕を含め、今此処に集まったお笑い好きな男女約五十名の審査をしてくれると言うのだろう。
だけどそれにしては、あまりにも頼りないと言うに相応しい“中年ノーネクタイ男”のその出で立ちと大胆さに、僕は正直な所、かなり驚いた。
“中年ノーネクタイ男”と“Tシャツにジーンズ姿の女の子”は、僕達約五十名に対面する形で、
一番前の長テーブルに二人並んで椅子に座った。
『皆さん、本日はこのオーディションに御応募くださいまして、誠にありがとうございます。
私は、このテレビ局で、主にローカル番組の制作に携わっている責任者です。』
“中年ノーネクタイ男”が手に持った書類の束を、トントンーとテーブルの上で均しながら言った。
その書類の束は、僕達約五十名がさっき書いたアンケート用紙だ。
やはり僕の予想していた通り、この男はローカル番組の制作責任者であるディレクターだった。
ならば、“Tシャツにジーンズ姿の女の子”の事をADと決めつけるにも、決して早くはないだろう。
彼女はマイクスタンドにマイクをセットし、僕達側の最前列の前に置いた。
『さて、これからオーディションを始めたいと思います。
それでは?番の方、浜崎 あさみさん‥どうぞ。』
“中年ノーネクタイ男”がそう言うと同時に、“Tシャツにジーンズ姿の女の子”が、デジタルビデオカメラを構えた。