個室の席に入ると、私は持っていた鞄の中身を全部その場にばらまきました。
携帯、手帳、化粧ポーチ、財布、私宛の手紙…。
私は私宛の手紙を手に取りました。
差出人は「川上伸一」
聞いた事がある名前の様な気がしましたが、顔が思い出せません。
封の開いた封筒から手紙を取り出して文章を読みました。
『美香へ━ 君が僕のプロポーズを受けてくれた事、心から嬉しいよ。君となら絶対に楽しい家庭を築けると思う。絶対幸せにするから。僕は来週日本に帰れる予定です。日本に帰ったら一番に君に会いに行くよ。愛してるよ美香…』
何度も読返されシワシワになった手紙はどうやら私の婚約者からの物らしいのですが、どうしてもその人の顔が思い出せません。
私は携帯を手に取ると川上伸一という男の名前を探しました。
メールにも着信にも川上伸一という名前がズラリと並んでいます。
私はこの男の事を知らない。
怖くなって、私は携帯を床に投げ付けました。
何なの?
誰なの?
私は呆然と床で電池パックの散らばった携帯を眺めていました。
何時間かして、何気なく手帳を開くと、今日の日付にハートマークと伸一帰国pm11:00と書き込まれていました。
伸一という男は今日私に会いに来る。
手紙の内容からして、絶対私の元へ来ると思いました。
怖かったですが、この不安とモヤモヤから開放されたくて、私は家で彼を待つ事にしました。
彼に会えば、多分全て分かるはず…。
部屋に入ると私はソファーに腰掛け、目を閉じました。
大丈夫…
大丈夫…
私は大丈夫…
知らないうちに私は眠っていました。そしてまた嫌な夢を見たんです。
苦しくてもがいていると、急に真っ赤な目が二つ私の前に現れてその目がこう言うんです。「お前のせいだ…お前が悪いんだ…死ねっ死ねっ死ね〜!」
ピンポーン
チャイムの音で目が覚めました。私はまた汗だくで息苦しくて意識がモウロウとしていました。
ピンポーン
伸一だ。
私はそう思いました。
ドアスコープからそっと様子を伺うと、スーツを着た男が一人立っていました。
私は大きく深呼吸して、ドアを開きました。
…つづく…