一番手の人が名前を呼ばれた。
どうやら、このコは物真似を披露するつもりらしい。
見た目のキャラと流れ出した曲のイントロで、それが誰の物真似なのかを想像できた。
歌が上手に歌える人に対し、音痴の僕は、凄く強い憧れを抱いている。
僕は、さっきのアンケート用紙の最後の質問事項を思い出した。
“あなたの一番得意とする芸は何ですかー”
得意とする芸と言ったってー
僕だって、こういったオーディションへ来たのは初めてだし。
はたしてー
これから僕がここで披露しようとしているネタは、
“得意とする芸”
と呼べるものなのか。
そんな事さえも分からずじまいで、
僕は結局、勢いでぶっつけ本番にかけるしかない事に気づいた。
一応、考えて来たネタではあったけれど、
これを今此処で披露して、ウケる保証は何処にもない。
もしかしたら僕だけが面白いと思っているだけのネタかもしれない。
けれど、今日の僕は、このオーディション会場に着いた時点で、強気な僕自身でいられる様な、
そんな気がしてならなかったんだ。
だから、あと数人で回ってくるであろう自分の番が来たら、
精一杯の事はするつもり。悔いの残らない様にね。
今まで23年間生きてきて、常に後ろ向きだった僕の人生が、
今日の、このオーディション参加がキッカケで、少し、前向きな自分になれそうな、そんな気がするから。