始めから愚かだったのは僕。
彼女が泡を吹いたとき、怖くなったのは僕。
眠れない夜に、わからない不安と苛立ちに振り回されていたのは僕。
誰でもない。
「孤独」を抱えたのは僕のせい。
真っすぐで、力強い彼女の目が、心が、僕に教えてくれた。
泣きながら笑う僕に、彼女はキョトン、としてそれから言った。
お兄さんのことは言わないから、安心して。
いいよ。僕は別に…
ううん。帰れるなら私はいいの。お兄さん、ありがとう。
わかってくれて、ありがとう。
さよなら。
お兄さん、もうこんな事しちゃダメだよ?
じゃあさようなら。
お腹ペコペコ。
走って消えていく彼女の後ろ姿に向かって、僕はまだ笑っていた。
ねえ、聞いた?
何を?
ほら、行方不明になってた女の子、見つかったのよ。
……うん。
開きっぱなしになってたマンホールに落ちて、まる二日気を失っていたんですって。
信じられる?
………ふぅん…。
良かったわよね?
落ちたのがあなただったらと思うと…本当に…いいえ、とにかく、見つかって良かったわ。
………うん。
あら?どうしたの…泣いてるの?
ううん。
ねぇ、お母さん。
なあに?
僕はまだ八歳だよね?
そうよ?
まだ…間に合うかな?
そう言って、涙目になった息子の肩を、私は抱きました。
何故かそうするのが相応しい気がして。
この子は何か変わったのかもしれない、と思ったのです。
以上が、僕の過去だよ。
いつか誰かに伝えたいと思っていた。
あの頃の僕は、自分のなかの何かに押し潰されて息が出来なかった。
けれど彼女との出会いで…僕は気付いた。
孤独は、人を傷つけることで癒されたりは絶対にしないと。
だから、僕はこれを書く…彼女も協力してくれたよ。
二十歳になった彼女は、今も真っすぐ、自分の夢に向かっている。
僕は君と結婚したい。
でもこの真実を受け入れてくれるかな?
答えは急がないよ。
………そうか……。
ありがとう。
終
人を殺すことは……
自分の心をも殺してしまう。
気づかせてくれてありがとう。
あの日の君へ。