「行ったか」
遥か彼方に飛び去っていくあおかぜを見ながら土田は呟いた。
もう止められない。
使命を終えた老骨は果てるのみ。
「だろう?“光司”」
ドアの前に、男は始めからそこにいた。
毎晩枕元に現れ、自分を非難し、批判し、否定する。あの男が。
『ええ、そうです』
紅い口腔が蠢き、男は笑った。
『飛び立ったんです。もう止められない。貴方にも、僕にも』
「・・・」
『世界は黄泉がえる。灰の山から黄泉がえる不死鳥の如く。更なる輝きをもって次の命を紡ぐんです』
「なぜ歪んでしまったんだ。お前は真っ直ぐだった。破滅的に・・・」
『僕は妄想に過ぎない。僕は貴方であり、貴方は僕なんです』
私を怨んでいたのか?母さんが死んだあの夜に、お前は怨みを綱に、茶室の真ん中に浮かんでいたのか?
『お慕い申し上げておりました』
“光司”の右手には銃が握られていた。
許してくれ。愚かな父を。だが、愛していた。
だから最期に呼んでくれ。
『さようなら。父さん』
一瞬の光。それは光司と共に、自分の意識を奪い去っていった。
「ええ、殺しましたわ。騒ぎなったら攻撃を」