たぶん嫉妬だろう、と思った。キンは、ルリやクロのような『人間らしい気持ち』を、持っていなかったから。
(人間らしい事の何が良いっていうんだろう。ボク達は人間とはまったく関係ない、想像の看守だっていうのに……)
わからない。わからないが、すごく大事なことだというのはわかる。
キンまで深々と考え込んでしまい、一人取り残されたミドリは焦った。
「ちょ、ちょっとみんな――」
しかしその時。腰のベルトに差した銀色のスティックが青白く輝き出したのに気づいて、ミドリはハッとなった。
ルリ、クロ、キンも、それぞれのスティックを包み込む青白い光に気づき、物思いを捨て、さっと表情を固くする。
「職務怠慢ってやつか!」
クロが鼻面にシワを寄せて、いつもの強烈な笑い顔を見せた。ルリは間髪入れずにスティックを抜き放つと、
「“示せ!”」
と、厳しい声で叫んだ。
スティックが光を上げて震動する。ブーンという低い音が部屋中に響き渡った。
そして。
一瞬、スティックが強烈な白い光を放つと、<部屋>にいる想像の看守すべての頭の中に、ある映像が鮮明に浮かび上がった。
闇に包まれた白い建物。窓の列。背の高い時計。広いグラウンド。テニスコート……。
「ここは、学校……?」
ミドリが怪訝そうに呟いた。
一つの窓を中心にとらえると、画面がズームアップしていく。
窓の向こう、教室の前を通る長い廊下にひしめくのは――異形の想像達だった。
「……!!」
そのあまりの数の多さに、想像の看守達は全員息を呑んだ。
「……少し放置しすぎたみたいだね」
キンがいつになく鋭い顔をしていた。
「学校の担当は交代で行うはずだったけど、クロかルリが当番だったのかな?」
「チッ!だったら何だってんだ!」
横柄なクロの態度に、キンは冷ややかな視線で彼を見つめた。
「少し頭を冷やしなよ、クロ。キミがユーイチの事にかまけてばかりだったから、こんな事になったんだ」
「違うわ、キン。私が悪いのよ。私がユーイチの事を漏らさなければ、こんな事には……」
「どっちだっていいよ!それより、今は責任を追及してる場合じゃないでしょ!」
ミドリの言葉に、キンは素直に頷いた。
「そうだね。じゃあ、相手の数も多い事だし、みんなで始末をつけに行こうか」
その言葉を合図に、彼らは出発の準備を開始した……。