僕は、“中年ノーネクタイ男”に一礼し、更に大変失礼な事にお尻を向けざるを得ない、他のエントリーしている人達に対してもペコリと頭を下げた。
そして、再び“中年ノーネクタイ男”と“Tシャツにジーンズ姿の女の子”の方へ向き直った。
意外に僕は落ち着いていた。
昔から人一倍気が弱くて、小心者なくせに、こういう人前で何かを披露するといった事は、わりかし平気な方だった。
本番に強いって事なのだろうか。
でも、考えようによっては僕の場合、それって結構周囲の人間のペースを乱す恐れのある“自己チュー人間”て事になりかねないかも。
自分でもよく分からないが、どうも僕は自分自身でさえも自分という人間が一体何者なのか分からないといった所があるんだ。
それは決して、僕の血液型がAB型だからという事には関係ないのだとは思うのだけれど。
『どうしたんですか?!中山未來君?!』
もう一度呼ばれて、僕はハッとした。
ほらね。今みたいな、こういう場面も含めて言える僕の変人ぶり―\r
まぁ、とりあえずここはネタを披露しなくては。
『ひ、ひ、ひとりあやとりをしまふ。』
僕は、とっておきのアイテムの赤い極太の毛糸をジーンズのポケットの中から取り出した。
一瞬、キョトンとした顔をしたのは、“中年ノーネクタイ男”の他にもう約一名―\r
“Tシャツにジーンズ姿の女の子”だった。
スタンドマイクの前に立つ僕は、ここぞとばかりにとっておきのアイテム=毛糸で、とっておきのネタを披露した。