『やま。かわ。あみ。うまのめ。つづみ。ふね‥‥。』
僕は、ひとりあやとりを披露した。
これは昔、死んだ婆ちゃんが僕に教えてくれたんだ。
小学校に入学して、間もない頃、内気で大人しくて、友達を作るのが大の苦手で、いつも仲間外れにされて、一人で泣いていた僕に、優しく教えてくれたんだ。
天国の、婆ちゃん。見てる?!僕は今、婆ちゃんに教えてもらった、ひとりあやとりを、こんな大勢の前で披露しているんだよ。
ひとりあやとりは、やま→かわ→あみ→うまのめ→つづみ→ふね‥‥まで行ったら、また、やま→かわ→あみ――‥‥という風に、
ただひたすらこれを繰り返すだけの単純なものである。
僕はそれを必死に繰り返した。
もう何十‥いや何百‥‥いや、小学校の頃から、今現在までに何千回と、僕は、このひとりあやとりを繰り返して来ただろう。
だって、この極太の赤い毛糸は、何時だって僕のスーツの内ポケットに、正露丸と一緒に忍ばせているんだからね。