少し身体を離すが、麻弥がくっついてくる。
その動作を何度も繰り返していくうちに遥はソファーの端に追い詰められ、身動きがとれなくなった。
「何故逃げるのだ・・・」
顔を赤らめながらも、遥を睨む。
それは何処かそそるものがあり、遥は凝視できなかった。
「それは──」
遥が口を開けた瞬間、店の窓ガラスが数枚割れた。窓ガラスの前に座っていた客は全員見るも無惨な姿と化し、倒れていた。ほかの客は悲鳴を上げながら逃げ、店の出入口で押し合いだした。店員は裏口から逃げていき、既に姿はなかった。
唯一逃げていない遥と麻弥。その二人の目には少女が映っていた。
「こんにちは」
少女は長い髪を風になびかせながら、薄く笑って挨拶をした。
「麻弥・・・」
「ああ・・・影身(ドッペルゲンガー)だ」
麻弥と全く同じ姿をした少女が、平気な顔をして死体の上を歩く。右手に細い木の棒を持ちながら、ゆっくりと近づいてくる。
「何で影身が?なんて思ってない?」
死体から降りると、目の前に倒れていた机や椅子を出鱈目に蹴り散らした。
「嫉妬、憎しみ、怒りを元にして私たち影身は出来上がる。あなた、昨日居た周りのカップルに嫉妬したでしょう?そんな小さな嫉妬からでも出来上がるのよ」