彼は、幼い頃の自分に戻り、母方の祖母の家にいるのを感じた。
古い家で、コタツに座っている兄はまだ5歳ほどに見える。
ブラウン管のテレビには昔よくみたアニメが映っている。
ああ、これは夢だ。懐かしいな。
と、彼は思った。
しかし、なぜ夢だと分かったのだろう?
普段ならば、夢とは無意識のうちに作られ、そこに疑問など生まれない。
どんなに理不尽であっても、
どんなに不可能なことであっても、普通なら「夢」とは気付かないものだ。
そのはずなのだ。
名前を呼ばれた気がして振り返った。彼は声のした方を見ると
そこには彼の母親が立っていた。
記憶が蘇ったのだろうか?すぐに彼は母親の顔を思い出した。
優しい笑顔で、彼と、彼の兄に話しかけてきた。
彼にとって、写真を除けば9年振りに見る笑顔だった。
何か、他愛のないことを話した気がする、と後に彼は振り返る。
この時の彼の喜びは言葉に出来ない。
母親が亡くなって以来、彼の母が夢に出てきたことは一度もない。
とにかく、彼は嬉しくて仕方なかった。