「…あ、悪魔…。」
疑問と言うよりは、確認するかのように呟いた。
「いかにも。俺様はいわゆる悪魔と言われるものだ。
名前はアイス。
まぁ、でも、覚えることはないよ。
アンタ、一年後死ぬんだし。」
「…?!」
あまりに、突然のことにあまりよく事情がのみこめなかった。
そんな僕をよそに、悪魔はほくそ笑む。
「まぁ、正確には、一年後に死ぬのは俺様と取引きをした場合だけだけど。」
そして、悪魔は続けて言った。
「ちなみに今のは、条件のひとつでもある。
俺様と取引きしたら、この女は目を覚ます。
だが、同時に記憶を無くす。
つまり、自分の名前も、アンタのこともわからなくなる。
どんなに頑張っても、記憶は戻らな。
記憶を無くす前、この女がアンタのことが好きだったとしても、記憶を無くしたこの女は二度とアンタを好きにならない。永遠に。
たとえ、記憶が戻ったとしても、それは同じ。
まぁ、一年後に記憶が戻るんだけどな。
つまり、アンタが死んだ時だ。」
悪魔は、ニヤニヤとしながら、楽しそうに言った。
「…構いません。
それで彼女が助かるなら…。」
僕は、覚悟を決め、言った。
ずっと、彼女が目を覚まさないよりはマシだ。
…それにどうせ、彼女は僕のことなど好きじゃないし…。
「ほう…。けっこう、結構。
ならば、契約成立だな。
よし、契約の証に、アンタの血をもらう。
右手を出しな。」
そう言って、僕がおそる、おそる差し出した右手にナイフのようなもので切ると、同じように自分の手を切り、傷口を合わせた。
「…よし、完了だ。
それじゃぁ、一年後。
丘崎 歩(おかざき あゆむ)くん。」
そう言って、にやっと笑うと、悪魔は消えた。
それにしてもなぜ、名前を知ってたんだろう…。
だが、僕が、その答えを知る日は二度とやってこないだろう…。