ざっと状況を確認し、危険の度合いを再確認してから、フィレーネとメシアに耳打ちをする。
近付けていた顔を離した二人は、これでもかというくらいに目を見開いて驚いた後、不安気に視線を迷わせた。
「これしかないの。そうでしょう?一応、警備員とか居るみたいだけど、この騒ぎで出て来ないって事は―――」
妖需の言葉を、フィレーネとメシアが引き継ぐ。
「見せ掛けだけの、給料泥棒か」
「既に動けなくなってしまわれたか、ですものね……。……不安ですが、やってみます…!」
警備員の身に起こった、最悪の事態を一瞬思い浮かべ、頭を振って無理矢理に追い出す。
お互いに、顔を見合わせ、励まし合うように頷いた。
一歩間違えば、全滅の危うい橋である事はわかっている。
だがもともと、あのような大型の魔物と海で遭遇してしまった時点で、私達の人生は終わったも同然なのだ。
それに、こちらには混血種が二人もいる。
だから、大丈夫。
必要以上に大きく足を踏み出し、ディルのやや後ろから、周り全体に気を配りながら、フィレーネやメシアに攻撃を加えようとする魔物を牽制していく。
助走をつけると、思った以上に体が軽く、いつもの何倍も、高く跳躍できた。
微かに香る、線香のような、甘みを帯びた匂い。
空中で体を捻ると、ジンが鎖の付いた銀の器を手に、舞を舞っているのが見えた。
これも、ジンの一族の力。
香を使って、生物の脳に働き掛け、通常の何倍もの力を出させる。
というか、これの応用が、おそらくあのゾル状の生き物(?)なのだろう。
「浙カスカナマ恵藾致ハシヤシムナ徭忻面面椌橋難」
床の上すれすれで弾けた水泡が、渇きかけの塩分を洗う。
「£¢〆†∫,'仝戍禦≡〆掫々ヾ∃"§∽∂∴¢∝∪!」
壁状に展開された防御陣が、魔物達と妖需達の間を固く隔てる。
メシアの"守護爽壁"によって孤立したディルは、既に満身創痍だ。
妖需の指笛を合図に、二人の魔力が高まった。