「幾つに戻りたいですか?」
帰途を急ぐ私に不意にかけられた言葉に私は、戸惑い半分で声の主を振り返った。
私より10センチも背の低い黒ずくめの男が、そこには佇んでいた。
「は………?」
「だから、幾つに戻りたいですか?」
男は細い眼で私をねめつけるように見回す。忙しいのに、とでも言いた気な気配を撒き散らし男は、ずいっと歩を進めた。
「だから、聞いているんです。幾つに戻りたいですか?と。」
「い、意味わかんないんだけど?」
「あぁ!これだから困るんだっ!」
男の言葉は、私が逆に言ってやりたい言葉だ。意味もわからず怒鳴られた私はイラッとしたように怒鳴り返した。
「別に戻りたいなんて思いませんっ!」
その言葉に男は一瞬驚いたかのように眼を見開いて私をみた。私の言葉は男には予想外だったらしい。
「…そうか。………そうですか、じゃあ、そうしましょう。」
男はまるで自分に言いきかせるように呟き、私に背を向けた。まるっきり意味がわからないままの私を残したまま、男は宵闇に掻き消えた。
「………えっ?」
私がその言葉を零した瞬間、背後から二つの眼の眩むような光が私に体当たりして来ていた。
光と共に痛みと苦痛が私の身体に弾けた。
はっと我に帰る。痛みも苦痛も夢だったかのように、嘘のように元通りだった。
ふーっと安堵の溜め息が口から溢れたその瞬間。
「幾つに戻りたいですか?」
聞き覚えのある声が私にかけられた。