「わりィ、夕べバイクいかれちゃってさァ。 今日はイサオの車にしようや」
「お? 別に構わないよ、俺は。 座れるだけ楽でいいかもな」
遊び仲間の木島聡が、野口功の愛車で現れた。
明石健介は乗せてもらう立場にあるため、特に異存はない。
「バイクってさァ、走ってりゃ涼しいけど信号で停まった時なんか、ヤローにしがみついてると悲しいよな ……殊に夏場は」
「……俺も全く同感〜。 あ〜あ、出来れば女の子にしがみつかれてーよ」
揃いもそろって女っ気ナシの三人組であったが、そのうち深紅の物体が高速で近づいて来たのに気づいた。
「おい、かなり飛ばしてるみたい‥」
クワアアァ――ッ!!
ウワンッ!クオォー………
健介が喋りかけた時、超高回転のエンジン音が窓から飛び込んで、続く声をかき消していった。
「何よ、アレ?……」
「真っ赤なバイク…だったよな?」
そこで、それまで黙っていた野口功が硬い表情でボソッと言う。
「出たな、化け物が……
あれはドゥカッティ・デスモ・クワトロってバイクだよ。
城崎凛(りん)って女のマシンだ」
「え?女かよ!」
健介と聡は、異口同音に意外な、と言いたげな声を上げる。
「あれ?さっきのドゥカッティが停まってるぞ……」
いち早く車を降りた健介が深紅のマシンに向かっていく。
そこにはヘルメットをシートに置いて、ティーカップを手にした娘が寛いでいる。
「ちょ、ちょっと健ちゃん……」
「イサオ、どしたん?」
かなり慌てた様子の野口功に、聡が問い掛ける。
「いや、言い忘れたんだけど、『化け物』はバイクじゃなくて、女の方なんだ」
「何だってェ?」
(どっかで見た顔だよなぁ …………あ!)
そこで悠然とティータイムを決め込んでいたのは、春先に見かけた『喧嘩の邪魔』をしていた、あのユニークな娘に間違いなかった。
こちらに気づいた娘、城崎凛は健介にニッコリほほ笑みかけてくる。
「バイクがお好きなんですか?」
「え、あの……」
健介は一瞬返事に困った。
つづく