ディルの視界を、闇が覆う。
次に大きな手に背中をわしづかみにされるような感覚をおぼえ、辺りを見回せば魔物達がびちびち跳ねているのがよく見える。
巨鳥だ。
蹄が食い込むのは、やむを得ないのだろう。攻撃をされている感じはない。
ディルを持ち上げたまま、空中で大人しく止している所を見ると、誰かの使役獣のようだ。
背後で、爆発的な魔力の高まりを感じる。
「ディル!海面に向けて電撃放って!思い切り!!」
妖需の声を聞いて、反射的に全力で電撃を放ってから、仲間の身が心配になった。
タイミングを合わせるように、甲板幾つものに水柱が上がったが――
(水って、電気通すよな……)
つじつまが合わない。
想像通り、雷撃は海面を走り、驚いた魔物達は逃げて行った。
床に下ろされて、すぐさま仲間の元へと走り寄ると、遠巻きにも、肩で荒い息をしているのが分かった。
幸い、船体にも大きな損傷は無く、このまま大陸方面へ向かうとの事だ。
「痛たたっ!痛いぃっ!ごめんってばっ!」
でかい鳥に、しこたま追い掛けられている妖需が、突かれて悲鳴を上げている。
使役獣というのは、お互いの利益もしくは、人間側の一方的な脅しにより、魔物や動物が人の命令に則って動く、というものだ。
勢い余ってすっ転んだ妖需の元に、巨鳥は気遣わし気によりそい、妖需は巨鳥の足の怪我の手当をしていた。
言うまでもなく、珍しい光景だ。
ヒトにとって――
――他の生き物は、比喩的な意味でも、直接的な意味でも、食い物でしかないからだ。
「そういえば、どうしてお前らって、感電してねぇんだよ?」
どうしても気になって、妖需に尋ねてみると、驚くような答が返ってきた。
「水って、ね。絶縁物なの。知らなかった?」
「絶縁物?」
聞いた事のない言葉だ。
つまり、こういう事らしい。真水は電気を通さず、海水に混ざっている塩は金属なので、電気を通す。
フィレーネのは真水だから…ということらしい。
そんな馬鹿な。
こいつだけは絶対に敵に回したくない、と密に思った。