「この水はどこから流れて来るのかな?」
なぜここで沢がなくなっているのかという最大の謎に気付かぬまま尋ねると、
「んだら探しにいぐか」
と叔父は沢を登り始めた。
沢は葛折りの様に山の斜面を規則的に曲がりくねって流れていた。
時折先を行く叔父の背中が見えなくなるのと、川底の砂に混じる小石の痛さに戸惑いながらも、水の不思議な冷たさに魅せられ登って行った。
どんなに登っても登っても、源流に着くどころか一層沢は広くなり、暗い森林の中にざぁざぁと水音だけが響いていた。
「そろそろおりるか?」
「うん。川の始まり見つからなくていいよ」
私の顔から疲労の色を感じたか、皆が心配すると思ったのか、叔父は私の顔を覗き込み、沢を下った。
冷たい水とさよならすると、また蒸し暑い草むらを通った。
さっき通った道の脇の草むらの遥か向こうに一本突き出て高く、真紅のカンナが咲いているのが見えた。