幼い記憶。

やえ  2008-05-03投稿
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血まみれの手を握ってくれたのは、アンタだった。


「汚れるよ」

「…べつにいい」


ぶっきらぼうに言い捨てると、アンタはあたしを助け起こした。


「……服、汚れるよ」

「べつにいいって言ってんだろ!」


次の瞬間、アンタはあたしを抱き締めた。


温かかった……。


アンタの手が不器用に背中を撫でるのを感じたとたん、両目から涙が溢れだした。


「泣くな」


アンタはあたしの頭を抱いた。あやすように体を揺する。あたしは壊れた水道管みたいに涙を流し続けた。

あたしは言った。


「……あたし、ヤだ。アンタの手、汚れちゃう……」


キレイな手が。

憎しみと痛みの赤に。


アンタは笑った。


「手なんて洗やあキレイになる」


何気ないその言葉が。

どれだけあたしの心を救ったか。

アンタは今でも知らないだろう。

知ったところで、いつもとおんなじ態度を取るんだろう。


……アンタの事が好きだ。


愛しくて愛しくて、胸が破裂しそうなくらい、想いでいっぱいになる。

ありがとう。

本当にありがとう。


――あたし、アンタに会えて、よかった……。


悲しみが終わりを告げた。


血まみれには変わりない。あたしはこれからもこの道を一人で歩くのだろうけど。


もう一人じゃ、ない。


アンタを巻き込ませはしない。ただ、あたしから離れすぎないで。

手が届く距離で、いつまでもあたしの事を――。


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