「町に出ようか」
気まぐれに、彼は言った。
ちょうど退屈していたアイサは二つ返事を返すと、彼と共に町へと出かけた。
彼にとっては初めての町。
アイサにとっては久しぶりの町。
町はもうすっかり冬に染まっており、祭りを開いているのか子供たちであふれかえっていた。
「ねぇ、何をする?」
子供ながらにはしゃぐアイサを彼は眩しそうに見ると、
「黒き姫」
「なぁに?サラサエル」
彼はくすりと笑うと、ポケットからお札を取り出した。
「遊んでおいで」
「え、でも…………」
アイサは手渡されたお札を見る。
おそらく教会に捧げられていたものだろう。
しわのよったものから、新しいものまで。
錆付いたコインもあった。
貴方は?
アイサは目だけで彼に問う。
しかし彼は僅かに笑っただけだった。
「僕はここにいるから、遊んでおいで」
「う……ん。判った」
「行ってくるね」
笑顔で町の方へかけていくアイサを、彼は手を振って見送った。
―――ああカミサマ。
どうかもう少し、もう少しだけ、
アイサのもとにいさせて―――\r