* * * * * *
あたしは、バスルームに行き、聖人に借りたスウェットから制服に着替えた―\r
ふと携帯で時間を確認すると、
リビングに差し込む日差しが、日中で最も強まる時間帯になっていた―\r
『マジでもう帰んの?!早くね?!』
『うん。今朝、ちょっとお母さんとケンカしちゃったから。気になっちゃって‥‥‥。』
『だって、奈央の母さん、働いてんだろ?!まだ帰ってないじゃん。』
カチ――
煙草に火を点けながら、聖人が言った―\r
『うん。何時も夕方帰って来るんだけど、今日はあたし今直ぐにでも、お母さんの働いているお弁当屋さんに行って謝りたいの。』
『‥‥‥そっか。
それでさっき、泣いてたのか‥‥‥。』
そう言いながら、聖人は座っていたソファーから立ち上がり―\r
灰皿に、吸っていた煙草を軽く押し当てた―\r
『分かった。んじゃ帰ろう。』
クルッとあたしの方へ一歩近付いた聖人は――
チュッ――
って――
おでこにキスをしてくれた――
『泣き虫が直るおまじない。』
キスと同時に―\r
あたしのおでこに、聖人の鼻の先が、
ちょんって当たった―\r
『あたし、泣き虫じゃないよ。聖人といると、涙もろくなっちゃうだけ。』
見上げた視線の先に―\r
聖人の優しい目があった―\r
『俺の前だけにしろよ。“涙もろい奈央”になるのは。』
『うん。』
『男は、女の子の涙に弱いんだから‥‥な。よし、行こうぜ。送ってくから。』
あたしは、聖人に家まで送ってもらう事になった――