「遠野さん!?」
薫は慌てて駆け寄ってみるが此葉は虚ろな瞳のまま身じろぎせずに座っている。
「クッ…クソ!そんなことしても無駄だ!此葉は俺の女だ!」
慌てて此葉の元へ長谷部は走り出す。
(薫!しばし奴を足止めするのじゃ!その間に儂が何とか目覚めさせる!)
「はい!」
薫は慌てて長谷部に向かい走り出す。
(とは言っても薫はまだ千里眼しか使えぬ…急がねば…)
狐文は両手で此葉の頬を手で挟み意識を集中させていく…。
…………………
「ここは…学び屋か?」
狐文が此葉の精神世界に入ってみるとそこは学校の校舎の中だった。
遠くの方から人の話し声が聞こえる。
狐文はその声がする方に歩いて行くと一つの部屋の前にたどり着く。
「この中にいるのか?」
そっと扉を開けて中を覗いてみるとそこには長谷部と此葉の姿が見えた。
「先輩はどおして陸上を始めたんですか?」
「ん?僕かい?僕は誰よりも早く走りたかったからさ。此葉は?」
「私は…早く走れれば気持ち良かったし褒めてもらえたから…」
「うん?誰に褒めてもらえたんだい?」
「それはよ…、誰だったかな…思い出せない…」
「きっとご両親かな。大丈夫だよ。今からは僕が褒めてあげるから。思い出さなくてもいいさ。」
「そうですよね。私には先輩がいるし…」
狐文の見る前で焦点の合ってない目のまま此葉は長谷部に甘えている。
「暗示の最中か…?」
狐文は扉を勢いよく開け放ち此葉を掴もうとするが掴めない…。
「うぬ…。此葉!目を醒ませ此葉!?」
声を荒げてみるものの声は届かないのか反応がない。
「くっ…、強い呪縛か…、この夢の想いの根底はなんじゃ…」
それでもなんとか此葉とコンタクトをとろうとしていたが辺りの空間が停まった。
(邪魔をするな。狐風情が!)
2人を中心に強い衝撃波は周囲に広がる。
「きゃんっ!」
(くっ…、おのれ獏め)
精神世界から弾き出された狐文が結界世界へと弾き飛ばされる。
「なんや?目覚めなかったんかい?」
獏と戦いながらも狐弦糸はそちらの方向を伺う。
(強い呪縛に捕われておる。この世界の根底を見つけねば…)
「ちょっま!洋介…!」
「おらぁ!」
髪を手甲に再構成させ獏を殴り倒す。
「あ〜まどろっこしい!さっさと目を醒ませおばさん!」