空に手を伸ばした。
届かない。
手をひっこめた瞬間、
届きそうな気がした。
* * * *
夕暮れ。
茜色に染まる坂道。
細く長く、伸びる影。
ひとつぼっちのそれに、不意に目頭が熱くなった。
仄かなオレンジ色の光が、
いつかの記憶をつれてくる。
あれは、
そう。
まだ、
彼がいて、
手を繋いで、
ただ、笑い会えてた頃。
不器用だった、
感情表現が、上手く出来なくて、
人と関わることが苦手で、
いつもひとりぼっちの私の手を引いてくれたのが、彼だった。
懐っこくて、
やさしくて、
温かくて。
いつか、
どうして、私なんかにかまうのって聞いたら、
独りはつまらないでしょって、笑って言ってた。
でも、その後、ふと心配そうな顔で、
俺と一緒はつまらない?って、言うから、
男の人なのに、可愛らしいなんて思ってしまったのも、覚えてる。
不意に、涙目。
ため息。
―ねぇ、
そっちの世界はどうですか?
こっちは、春が来て、陽気なはずなのに、
アナタがいないから、なんだか寂しいんです。
見上げた、この空に、
彼がいたらいいな。
なんて。