「さすが、せっかく町に来たのに、本ばっかり読んでただけあるわね。」
突然入ってきたフィレーネの声に、妖需は照れたように、少し困った顔をした。
「でも、私達、少し痺れたわよ?」
そうだ。ディルが駆け付けた時、4人は軽く筋肉が硬直してしまっており、ろくに動けなかった。
妖需は平然と応対する。
「そりゃあ、小さい抜け道はいくらでもあるよ?だから、メシアに護ってもらったの。」
「一度フィレーネに洗ってもらったけど甲板に塩は残ってたしね。」
なるほど。2人して納得してしまった。
思えば港に来るまでも、妖需は
窮地に陥る度に仲間達に的確に指示を飛ばしていた。
今のだって、決して力で負かした訳でなく、天候の悪化と見せかけて、魔物達に帰る事を促したのだ。
例え何処に居ようと、このピスティアでは、魔物の被害を受ける。
だから当然、そこで生きる人々は、ある程度の戦闘能力を持っている。
つまり。
玄人と素人の間にあるのは、それとは違う差だということで。
半端に殺しをして、あのような、種族がまちまちの魔物達を全て敵に回せば、海に近付く度に付け狙われてしまうだろう。
きっと、妖需もジンも、そこまで見越して動いていた。
今海を見渡しても、生き物の死骸は、何一つ浮かんでいない。
フィレーネに心があるように、その血の半分を持つ魔物にも、きっと心はあって。
恋人や家族が殺されれば、当然悲しむのだろう。
その証拠に、同種族の魔物の群れのうち一匹を仕留めると、たちまち残りにタコ殴りにされる。
考えた事も、無かった。
その事に、今になって初めて気付いた。
青一色の世界に、黒い物がぼんやりと映りだす。
遠い何処かを見つめる君は
君の強い瞳は
何を映すんだろう
少し考えて
すぐに諦めた