昔の思い出11

もね  2008-05-07投稿
閲覧数[400] 良い投票[0] 悪い投票[0]

祖父が倒れたとの知らせがあったのは、声を入れたカセットテープを送った数ヶ月後の夏の事だった。
真夏の炎天下に女川や石巻の駅で反対演説を繰り返していた祖父は、とうとう活動中に意識を失った。
祖父が仮退院するまで待ち、私達家族が帰郷すると、家はしんと静まり返っていた。
奥の部屋に祖父は寝かされており、大人達が交代で祖父の看護をしていた。
祖父の様子を見ていた祖母がある日、私達兄妹を呼んだ。
「おじいちゃんは頭痛いから声出しちゃ駄目だよ」
母にきつく言われ、ぐっと口を結んで部屋に入った。
祖父は目をつぶっていて寝ているかと思った。
目を開けたが朦朧としていた。
兄には「頑張って勉強して偉くなるんだぞ」としっかりした声で言った。
私には「器量良しだからいい娘になるぞ」とだけ言って以前私を叩いた同じ手で頬を撫でた。
それから数日後に女川を後にしたが、祖父の危篤の知らせが届くまでそう長くはかからなかった。

祖父の死から四年後、女川原発一号機が稼動を始めた。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 もね 」さんの小説

もっと見る

エッセイの新着小説

もっと見る

[PR]
本気で盛るなら
Chillax(チラックス)★


▲ページトップ