* * * * * *
聖人は、あたしを母の勤めるお弁当屋さんの直ぐ近くまで送ってくれ、
あたしは一人でお弁当屋さんへ向かった―\r
お母さん‥怒ってるかな‥‥。
何て言おう‥‥。
ただ一言―\r
“ごめんなさい”って言えば済むコトなのに―\r
その一言が―\r
なかなか素直じゃない、あたしの口から旨く言えたなら―\r
その後の言葉も、きっとスムーズに言えるだろうって―\r
そんなコトを考えながら―\r
あたしはゆっくりと歩いていた―\r
『奈央!!』
名前を呼ばれた、その聞き覚えのある声に―\r
あたしは後ろを振り向いた―\r
『お母さん???』
驚いた事に―\r
そこには、両手に買い物袋を持った母が、
にっこり笑って立っていた―\r
『奈央。今日は、学校終わるの随分早かったのね?』
母が悲しそうな、優しい笑顔で言った―\r
『お母さん‥‥。今朝は‥‥あたし‥‥言い過ぎちゃって‥‥ご‥め‥‥。』
母の優しい笑顔を見たら―\r
言いたかった言葉が―\r
言葉にならなかった―\r
言いたい言葉が山ほどあるのに―\r
言いたい言葉を考えていたのに―\r
言いたい言葉の数々は、
ただ―\r
あたしの頭の中で、
ぐるぐると空回り―\r
『実は母さんもね、今日は仕事、午後からサボっちゃった!!』
母は、そう言って笑った―