……私は、人間界に舞い降りる。
同時に身体を言いようのない怠さが襲った。多分、なれてないんだ……魔界と違う空気に、穏やかに流れる時間に……。
魔界とは何もかもが違いすぎるんだ。
建物が崩れる事もなく、ちゃんと建っている。大地は荒れる事なく、ちゃんと舗装されてる。
「こんばんわ」
誰かの声。
私に話し掛けているんだろうか?
声が聞こえた方向に体を向けると両手に買い物袋を下げた、おばさんが私に向かってニッコリと微笑んでいた。
「綺麗な紅い髪ね〜、羨ましいわ」
何を言ってるんだろう?
何が目的なんだろう?
私に何か用があるのだろうか?
分からない。
「このへんじゃ見ない顔だけど、御堂さんとこの息子さんのお友達?」
言いながら、おばさんは私の後方に建つ小さな木造の家を見上げた。
御堂(みどう)……ガンドールの転生した姿、私が殺すべきターゲットの名前だ。
あまり事を荒立てるのも、後々めんどうくさい。
「あ、そーですよ。御堂さんとこの息子さんの友達でーす」
片手をピッとあげながら、愛想よくおばさんに応えておく。
「あそこの家、大変でしょ?早くに旦那さんを事故で亡くされて、奥さん女手一つで息子さんを育ててらっしゃるのよ」
どうでもいい話だ。
私には関係ない。
「そんな事よりも、いーんですか?帰る途中だったんじゃ」
「あら、やだ私ったら」
帰っていく、おばさんを横目に私は目の前の建物を見上げる。
私が殺すべき相手、そいつはここにいる。