「はい、サラサエル」
「………ありがとう。黒き姫」
アイサはにこりと笑って林檎飴をなめ始める。
彼はその真っ赤な飴を食べるアイサの様子を少しうかがうと、手渡された綿飴に視線を落とした。
………これは一体なんだろう?
果たして食物なのか?
それとも……………
「ん?どうしたの?サラサエル」
「……ねぇ。これはなんだい?」
これ と言って手に持っている綿飴をアイサの前にかざす。
「えっ?綿飴よ?」
「わたあめ?」
「そう、綿飴。美味しいよ?」
「へぇ…………」
彼は再び手にした綿飴に視線を落とした。
そしておもむろにそれを―――\r
――――舐めた。
「……甘い」
綿飴は舐められた場所から徐々に溶けていく。
彼は溶けた綿飴を舐める。綿飴はどんどん溶けていった。
「サラサエル。綿飴は食べたほうがおいしいよ?」
アイサが彼に話し掛けたので彼はそちらを向いた。
「これ、食べられるの?」
「当たり前よ。ちょっぴり頂戴」
アイサは彼の綿飴をほんの少し摘むと自分の口に運んだ。
彼は納得したように頷くと、綿飴をパクリと食べる。
途端、口の中いっぱいに甘い味が広がったようで、彼はふわりと笑った。
ふと彼は、この雪もあの雲も全部が綿飴だったらいいと考えたが、そんな事はありはしないと同時に理解した。
少しだけ残念に思ったが、当たり前だという感情がそれを打ち消した。
「………サラサエル、口の周りペタペタしてるよ?」
「……後で拭き取るからいいよ」
くすくすと笑いながら言うアイサと、少しむくれたように言う彼。
仲の良い姉弟だと、その場にいた町人たちは思った。