尾戸町の祭りは神輿が主役だ、昼間に合計八台の神輿がわっしょいわっしょいと何度も通りを行き来する。
祭りの日を待ちわびたはっぴ姿の男達は、一年分のうさをここぞとばかり晴らす気なのか、酒と狂気に目を血走らせ、神の乗る輿を激しく上下に揺らし、歩行者天国となった本町通りの二車線道路で足を踏み鳴らすのである。
そして、この祭りのクライマックスは朝渡りと呼ばれる。本町通りに対して垂直に流れる琵琶湖を模して作られた人工の小川を、日付の変わった深夜、半裸でほとんど泥酔状態の男衆が、大量の松明を燃やして赤々と神輿を照らし、おもむろにそれをかつぐと全力疾走で小川に突入、渡河するというものだ。
ま、パワフルな祭りと言えるのだろう。
しかし国内はおろか、県内でもその祭りの存在を知る人は少なく、伝統はあるが予選では二勝がやっとの公立高校の野球部、そんな雰囲気の祭りなのである。
この話はそんないち地方の、小さな祭りから始まるのであった。