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テレビ局を出た僕は、再びバスに乗った。
札幌駅前ターミナル行き――
まだ時間が早かった―\r
一時から始まったオーディションも途中で辞退してしまったし、
折角此処まで来たのだから、久々に買い物でもして帰ろうと思ったのだ。
バスの中は、とても落ち着く。
僕の大好きな場所の一つだ。
何故バスが好きなのかと聞かれたら、多分その質問に即答する事は出来ないが、
仕事の疲れで滅入った気持ちを逆撫でされる様な、せわしさがバスには無いからだと思う。
僕は、このバスの終点で降りた。
札幌駅から大通りまで行くのに、地下鉄でたったの一駅だからという訳ではないが、
やはり僕は、地下鉄には乗らずに、徒歩で行く事を選んだ。
街行く雑踏の中、僕はさっきの“Tシャツにジーンズ姿の女の子”の事を考えていた。
“しょんべん小僧!!”
確かに彼女は、そう言った。
あの子は一体誰だったのか―\r
テレビ局を出て来てしまった以上、それを考える事は無駄な事として、
いずれは僕の脳から消え去ってしまうだろう。
僕は古着屋で洋服を買い、CDショップでハードロック系の大好きなバンドのCDを購入した。
幸いにも今日は天気が良く、徒歩での移動が気持ちが良かった。
そんな一人でショッピングを楽しんでいた僕に、街頭でティッシュ配りをしていた女の子が、
微笑んで広告入りのティッシュを差し出した――
――そのティッシュを受け取った僕は、思わず目を疑ってしまった。
なんとそこに立っていたティッシュ配りの女の子は、
オーディション会場で見て来たばかりの僕の事を“しょんべん小僧!!”と呼んだ“Tシャツにジーンズ姿の女の子”だったのだ。