はあ! やっとあのいかさまな門の密集地帯を抜けられた。
右に門があれば左に避(よ)けて、左にあれば右に避ける、両側にあればトラックが来ないうちに走り抜ける、こういう情けない行動はおれの好むことではないのだが、何とはなしに我慢して進んできた。
今は、ざわざわと不気味に音を立て続ける長くのびる林と、それに吸い込まれていくようなまばらに散在する粗末な家とに、押しつぶされてしまいそうな、さっきよりもこぢんまりとした道を歩いている。
途中みちばたに落ちていたノウゼンカズラの花を拾い握ってきたので、てのひらにだけ異常なほど噴き出た汗にしつこいほどその臭(にお)いが染み込んでいる。
うつむき眺めると、ノウゼンカズラは命を絶たれてブローチみたいになってしまっていても、まだまだ赤みがかった橙(オレンジ)の鮮やかな色を発している。──いったい、いつ落ちたのだろうか。昨日か今日か? ぜんたい、明日にはくすみ、明後日には萎(しお)れてしまう? そうしてその次の日にはもう、跡形もなく消える気なのか。
・・・・・・夕どきに淑(しと)やかな夜の空気が漂いだす。さっきまであった陽炎(かげろう)はどこかへ消えた。
「もういい。帰ろう」おれはこう言って敢然と後ろを振り返る。と、そこには──刃物のように細長い形をした道の切っ先辺りには、あの門がいくつか・・・・・・見えていた。