「わ…ご、ごめんなさいっ…」
先程一目置いたばかりにも関わらず、フラフラと3歩もけば通行人にぶつかっている。
見兼ねたフィレーネに手を引かれ、相変わらずよたよたと歩く妖需と、戦いがどうも結び付かくて。
もしも、もしも俺達が、もって平和な世界に生まれていたなら。
ふと、そんな事を考えてしまった。
ジンも妖需も、底抜けに明るい振る舞いをしつつも、常に気を張り、本当弱みを見せる事はない。
絶対に。
「………」
だから、そんな必要のない生活を思い描いてしまう。
まるで、焦がれるように。
「ディル?」
気付けば、妖需が心配そうにこちらを見上げていた。
「どうしたの?ぼうっとし……っ!」
金属音が辺りに響いた。
「なんだ、お前は!」
たった今、妖需と衝突した男性は、苛立った様子でこちらを怒鳴りつけた。
「ご…ごめんなさい……」
立派な鎧で武装した兵士とぶつかり、結果尻餅をついた妖需の方こそ、結構痛かったと思うのだが。
「なんだ。その目は?」
妖需が素直に謝っているにも関わらず、ディルにまで喧嘩を売ってくる始末だ。
馬鹿だろ、この糞野郎。
「その恰好……国のお抱えの兵士様がこんな所にいるのは、理由があるからだろーが?」
火に油を注ぐ行為だというのはわかっている。
だが、こういう力で物事を捩伏せるような大人なんぞ、ディルの一番嫌いなものなのだ。
「餓鬼なんぞに構ってねーで、さっさと行ったらどうだ?器の小せぇ奴だな」
「んだと……!」
男性が抜刀しようと、腰を沈めた。ディルも呼応するように、半身になり、拳を固める。
相手は剣を構えようとしているのだ。殴るくらい、正当防衛というものだろう。
舐めた真似をしたのは向こうが先だ。
体を軽く前に倒し、頭は極力低く。
腕は突き出す直前まで、腰に引き付けて―\r
「待ってください!ぶつかった事も、ご無礼もこの通りお詫びしますから……!」
妖需が必死に訴える。
怒りが、激走する。
苛々する。
なんなんだよ、これ………!?