フリッツの母親の家系は代々熱心なキリスト教信者、そういうこともあり子供のころからよく神や天使の話を聞かされていた。
目の前にいるのはまさしく天使のイメージにぴったりの少女、一瞬フリッツは自分は死んだのではないかと思った。
見たこともない世界に翼の生えた天使…、ここは天国なのか?そう思ったからだ。
フリッツは躊躇することなく、というより無意識に銃を下ろしていた。
「…この街の人じゃないですよね?」
少女の優しい声は放心状態が続いていたフリッツをいっきに現実世界へと引き戻した。
フリッツは「違う」とだけ応えると堰を切ったように次々とこの世界への疑問を少女にぶつけた。
少女は少し戸惑っていたもののゆっくりと丁寧にこの異世界のことを話してくれた。
魔法が存在すること、いろいろな種族のこと、今この世界で起こっている戦争のこと、どれも信じられない話だったが翼の生えた少女を目の前にしてこの異世界の存在を信じるしかなかった。
「君は天使なのか?」という問いに少女は「そんな高貴なものじゃないです」と謙遜しながら自分の種族の事も話してくれた。
彼女たちの種族は普通男にだけ翼が生え女で翼が生える事はほとんど無いらしい。
「君は特別な存在なんだな」というフリッツの言葉に少女はまた謙遜しどこか悲しげに笑った。
その悲しい笑顔の理由は街に案内されてすぐ分かった。
『有翼の女』は災いを引き起こす者として昔から忌み嫌われているらしく街に入ってすぐ通りすがりの同族の男から汚い言葉で罵られた。
もう慣れてしまったのか彼女は顔色1つ変えず汚い言葉を浴びせかけた男に対して軽く頭をさげた。