プログラムの最後は空手奪刀(くうしゅだっとう)とのみ記されており、演武者の名前は記載されていなかった。
「ここだけ名前が消されてますけど?……」
「あ、これはですね、本来出場予定だった方が急病で出られなくなりまして。」
「それで印刷がパンフレットの配布に間に合わなかったんですよ」
「ああ、なる程」
物腰の柔らかな受け付けの男性から説明を受け、明石健介は納得した。
(奪刀って……真剣か!)
『白刃を相手に』と凛が言っていた意味をようやく悟った健介である。
デモンストレーションも兼ねて、真剣である事をアピールするために巻きワラ切りが行なわれた。
「キエェ――イッ!!」
鋭い気合いと共に銀光が閃く。
一拍置いて、巻きワラの上半分がゆっくりと滑り落ちてゆく。
思わず寒気を感じる程の切れ味であった。
後ろに控えている城崎凛は、普段と変わらぬ様子だ。
やがてドーン!、という太鼓の音を合図に最後の模範演技が始まった。
刀を正眼に構えた相手役がすり足で間を詰めていく。
凛は背筋を真っすぐに伸ばしたまま、佇立している。
ついに、刃の届く間合いに入った相手。
「キエェーッ!」
烈帛の気合いをあげ、刀を振りかぶった。
「えいっ!!」
まさに電光の早業で飛び込んだ凛。
相手役の視界が袖に隠れる一瞬をついた凛は、当て身を入れると同時に柄中を握り、アッサリと刀を奪い取ってしまった。
(すげーっ!…… 何て早さだ)
観客の拍手が鳴り響く中、健介は木村猛の言葉を思いだしていた。
《涼が風なら、凛さんはさしずめ『光』って事だよ》
城崎凛は丁寧に一礼した後、拍手を背に去ってゆく。
最終話へつづく