3日続いた鬱陶しい雨が上がり、快晴の空が広がる。病室の窓から、大きな虹が見えた。
「虹の向こう側には宝物がある」子供の頃に聞いたことがある。
私は別に信じていたわけではないけど、何だかワクワクとこみ上げてくる好奇心に心臓が躍る。
虹の彼方を見つけたら、何だか願いが叶うような気がした。
私は腕の点滴を引き抜き、パジャマを着替えた。面会謝絶の病室から顔を出し、辺りを確認して早足で歩き出す。
廊下を行き交う病人の間をすり抜けて、病院の玄関が近付く度に自然に小走りになっていく。
玄関から外にでた!!
何年かぶりに出た外の世界は、眩しかった。軽い立ちくらみを覚えて立ち止まったが、私は空を見上げてまた歩き始めた。虹を目指して。
今頃病室をみた看護婦さんは、私が居なくなったから、慌てて探し回ってる頃かなぁ?
どうなっても構わない。私はそう思っていた。
私の命はあと何日もつかわからない。みんなは隠すから知らないふりしてたけど、癌が再発した時点で本当は助からないって気付いてたんだから。
どうせ死ぬなら……
まだ少ししか歩いていないのに息切れがする。私はいつからこんなに弱くなったんだろう。情けなくて涙がでる。
虹は、病室でみた時より薄くなってきた。まるで私の命みたい。考えたら悲しくて何だか少し笑えた。
急がなきゃいけない。
歩道橋を渡り、交差点を横切って虹のかなたを探す。
私には、かつて結婚の約束をした彼がいた。好きで仕方なかったけど、私は病気の再発と同時に別れを告げた。
嫌いになった。なんて酷いこと言って彼を傷つけたけど、本当は好きで仕方なかった。彼が帰った後には涙が止まらなかった。
本当は彼と結婚したかった。プロポーズをくれたあの夜は私にとって最初で最後の幸せだった。
目の前がクラクラする。少し息が苦しい。
ああ、私はこのまま死ぬのかな。
私は薄れてゆく意識のなかで、私は分かった。私は、生きたかったのだ。私の宝物は、命。
自然に涙が頬を伝いこぼれ落ちた。
ふと、目の前が明るくなる。虹の彼方が見えた。その下には………彼が見えた気がした。