『秋は忙しいの。』
俺はそれを聞くたびに芸術の秋を感じる。俺が住む街には銀杏の木がなく、冷たい風と共に紅葉の葉が勢いよく剣の様に地面に突き刺さる。
キョンともなかなか前の様に連絡を取ることが出来なくなった。キョンの忙しさは秋を通り越し、師走のようだ。
その間、俺は仕事と家を往復する毎日。俺も残業も少しずつ増えて来た。倒れてからの月日が経てばまた元通りになるものだ。こき使う上司、はいはいと使われる俺。主従関係。
そんな毎日だった。
キョンという大きな存在が連絡が来ないだけで大きな穴ができる。無限大に広くて深く、暗い底は大きなクレーター。
埋めるものは一つ、いや、一人だけ…
俺にはキョンしかいないのに、分かっていたのになんで言えなかったのだろうか
「じゃあ結婚しよっか」
コインランドリーの風景が思い出ではなく後悔に変わりそうな刹那さが俺を締め付ける。
キョンに会いたい。けど邪魔をしては行けない。
指をくわえて待つことしか今は出来ない俺に似合う言葉
無力
そんなある日だった。
その日は休みで残業明け。起きると12時を回っていたと思う。
いつものようにカーテンを開けると外は雨。秋風に吹かれて冷たそうだった。
ダラダラとテレビのスイッチを入れ、煙草に火をつける。
昼のバラエティーは一人で見る程つまらないものはない。ただ俺の大きなクレーターを雑音や煙草の煙でごまかそうとしているだけだ。
携帯のバイブが鳴る。
いつも大事に持っていた携帯もキョンからのメールやTELが来なければただのうるさい目覚まし時計のようなものだ。
念のため携帯をみるとメールが一件受信されていた。開くとキョンからのメールだった。
『今日は休みかな?私はこれから仕事だよ!頑張るね』
「忙しそうだけど頑張ってね、キョン。」
すぐに返信をした。
その時にインターホンが鳴った。
ここ最近、新聞の勧誘が多くて困る。
俺は玄関に向かって歩き出した。
髪は寝癖が酷く、バサバサで、髭も少し伸びていた。
二重にロックしていた鍵を開けて俺は扉を開いた。