祐輔は困惑した。牛嶋は何故、嘘をついたのかと。
「牛嶋さんて助教授なの?」
「そうですよ…でも牛嶋助教授が研究室に来るなんて珍しいですね」
「どういうこと?…」
「半年前に石嶺助教授が亡くなられるまでは、頻繁に研究室に来て教授と研究について話し合ってたんですけど…」
「けど?…」
「わたし…聞いちゃったんです。石嶺助教授の代わりに手伝わせてくれと懇願する牛嶋助教授に…『駄目なものは駄目だ!!』て、あの温厚な教授が怒鳴りつけてるのを…それ以来、牛嶋助教授は顔を出さなくなってたんです」
「そんな事があったんだ…いろいろありがとう」
「い〜え…」
「あッ!ちょっと待って!」
ニコリと会釈をして立ち去ろうとする女子生徒を祐輔は呼び止めた。
「大林教授の研究の拠点は他にも在るのかな…」
「在りますよ…信州の別荘を研究室代わりにされてましたから…一年前にわたしも研究のお手伝いで行きました」
「その場所…教えてもらってもいいかな…」
「いいですよ…」
別荘の場所を聞いた祐輔は、信州へと向けて車を走らせた。
「大林教授は石嶺助教授の死で、研究に危険が伴うと気付いて悠子の安否を気遣っていたんだ。牛嶋にキツく当たったのもそのためだ…あ…ダメだ…」
睡魔が襲ってきたので、祐輔はドライブインの駐車場で仮眠を取ることにした。
眠りに着いて一時間ほど経って、祐輔は悠子の夢をみて目が覚めた。悠子は祐輔に何か話し掛けているのだが、口だけが動いて声が出ていない…そんな夢だった。
「悠子…俺は君の全てを分かってると思ってた…でも、そうじゃなかった…」
祐輔はまた車を走らせた。高速を降りてしばらく進むと、山道に入り周りはブナの林に覆われている。
やがて辺りは夕陽に包まれて、あまりの美しさに気分が良くなったのか、祐輔は鼻歌を口吟み始めた。
「…月曜日はストロガノフを食べた…火曜日はピロシキひとつ…水曜日は…」
キキーー…!
祐輔はハッとして、思わずブレーキを踏でいた。