どうしてだか気分が沈む。なんと明日はB子ちゃんとのデート紛いな一日というのにだ。
それをこうして、飛ぶ間際の鳥を襲った毒蛇のように、おれの浮き立つ心を押さえつけるものは何なのだ──事件か、災厄か、病気か、凶兆か、疑惑か、怒号か、欷歔(ききょ)か、紛争か、苦悶(くもん)か、絶望か、血か、汗か、涙か、夢野か。
・・・・・・鉛色の空。誰かの、囁(ささや)くようなか細い声が、ぼくには聞こえてくる。
「怒鳴られたり殴られたりして辛い」「生きてこなければよかった」。そんな痛ましい声。
ぼくの涙は、とうとうどの場所にも誰かのそばにも辿(たど)り着くことなく、涸(か)れてしまった。
それでもぼくは、その声に、できるだけ多くの人に耳を傾けてもらえるよう注意を引きたい、と、今でも胸に涙を流すときのような熱いざわめきを感じるほどに、思っている。
だからぼくは、自分ではもう二度と見ることのできない爽(さわ)やかな朝の青空を、いつまでもただ、何かの一部となって感じていられることを、願うばかり。
数限りない清流のような涙で厚い雲を晴らし、どうか尽きることなく、あなたに幸せを・・・・・・。
屋上から、夢野の左足が離れ、続いておれの右足も今──