一週間 五章 死体

伊守弐ノラ  2008-05-13投稿
閲覧数[496] 良い投票[0] 悪い投票[0]


「そんな…何故だ…」

祐輔はハンドルに額を押し付けたまま動かない。

「何故…俺が一週間の歌を知ってる…いや、俺は知ってる…この歌を…」

その時だった。祐輔の脳裏に悠子と交わした最後の会話が鮮明に蘇った。

「違う…あの時悠子は『一週間の歌知ってる』て言ったんじゃない…『知ってる』じゃなくて…『覚えてる』て言ったんだ!」

祐輔は顔を上げてアクセルを踏み、車を再び別荘へと進めた。

「俺と悠子はこの歌を聞いたり歌ったりしていたってことか…俺たちの田舎の歌…いや、ストロガノフとかピロシキは…やっぱりロシアの歌だよな…」

混乱しながらも、祐輔は歌の続きを思い出そうとしたがなかなか出てこない。まるで自身がそれを拒んでいるかのように。

大林教授の別荘は、山奥の一軒家だが一応、申し訳程度にアスファルトの敷かれた道路が駐車スペースの側まで通っていた。

祐輔がその駐車スペースに車を停めた頃には、辺りはすっかり闇に覆われていた。

そして、祐輔がエンジンを切ろうと車のキーに手を伸ばすと同時だった。

うわーー!

ガタン!ゴトッ!ガッシャン!

悲鳴とともに家具の倒れる音や瀬戸物の割れる音がした後に、左手で何かを抱えた男が慌てふためきながら飛び出してきた。

そして、祐輔の車のヘッドライトの光に浮かび上がったその顔は…牛嶋だった。

「牛嶋!」

しかし牛嶋は、祐輔に気付く余裕もないくらいに怯えた様子で、道路脇に停めてあった車に飛び乗って、急発進して去っていった。

祐輔が開きっ放しになった玄関から中を窺うと、暗がりの中、牛嶋が落としていったと見られる懐中電灯に照らされて、倒れた椅子と、割れた花瓶の破片が散らばっているのを垣間見れた。

懐中電灯を拾って中に進むと、またドアが開きっ放しになっている部屋が在る。

懐中電灯で、蛍光灯のスイッチを探し明かりを点した瞬間、祐輔は息を飲んだ。

「大林教授…なのか…」

書斎と思われる部屋。その机の向う側で、身をよじり腰掛ける死体が一体、顔は激痛に歪み、開いた指は全てくの字に曲がっている。

どす黒く変色したその骸の内臓は、まるで食い尽くされたかの如く、無くなっていた…。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 伊守弐ノラ 」さんの小説

もっと見る

ホラーの新着小説

もっと見る

[PR]
本気で盛るなら
Chillax(チラックス)★


▲ページトップ