俺は待っていた。
延々と地平線の様に続く一直線の道路の向こうから、アレがやってくるのを……。
そうだ。
そうでなければ……。
「俺が、こんな暑い場所で訳もなくシーサーと戯れている筈がないっ!」
言いながら拳をぎゅっと握り大きく豪語した。
ぶろろーん。
瞬間、鼻を覆いたくなる様な黒ずんだ排気ガスの匂いが鼻をぬけた。
沖縄でも特に自然が溢れた田舎町の、この辺りではご無沙汰の匂いだ。
間違うはずがあるまい。
俺は排気ガスがした方向に顔をやる。
そこには全体を淡い黄色にペイントされたバスが、車体を小刻みに震わせながら停車していた。
おまけに車体にはポップなシーサーが、やしの実を食らっている絵がペイントされていた。
おい、色々混ざりすぎだろ……とツッコミたいのを我慢しつつ、ゆっくりとバスに近づいて行く。
バスの前までやってくると、真夏だと言うのにスーツに身を包んだ男性や、アロハシャツのおっさん、さらには女将のような恰好をしたおばさんが、バスから人が降りてくるのを待っていた。
同業者……か。
恐らくコイツらも俺と同じ仕事を生業としている奴らだろう。
この仕事は夏が一番の稼ぎ時だからな。
半袖短パンのラフで地味な恰好をした俺も、さりげなくその待ち人の中に混ざる。
……暫く待つと、バスの中から人が降りてきた。
「めんそーれっ!沖縄にようこそ」
一斉に待ち人達が我先にと声を張り上げた。
そして、それぞれ各々、観光客のおばさん達や家族連れなどを予め用意していた車に乗せて、この場を去っていく。
「わーいっ、ハイビスカスの首飾りだ」
俺と同じ待ち人であるスーツの男性に、綺麗な花の首飾りをかけてもらった小さな女の子がきゃっ、きゃっと俺の前で嬉しそうに跳びはねている。
「本日は当ホテルロイヤルスイート沖縄をご予約いただき誠にありがとうございます」
スーツの男性が女の子の親に実に基本どうり丁寧に挨拶をする。
名前、礼儀、着衣、プレゼント……どれをとっても一流ぽい。
それに比べて俺は……。
改めて自身の体を見回す。
半袖短パン……、ぼさぼさの髪形、極めつけにシーサーと遊んでた『イタイ人』
負けた。
はぁ、と溜息を漏らす。
「にーちゃん、ダサいね」
ぷっと含み笑いを見せながら女の子が俺を見上げる。
ダサい……。
なんだそれは、新種のやさいか?